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経営思想 2026.05.18 読了 約6分

通っている店が、最強の営業先になる — 消費者として埋め込まれるという戦略

街を歩いていて、ふと思うことがあります。

「このコンビニ、夜の客の流れと深夜の店員の動き、どう見てもこのままじゃきつい」「この行きつけのバー、マスターが 1 人で電話・酒・接客・洗い物を回してて、もう 1 人何かが必要そう」「この美容院、予約なしで人気だけど、待ち時間の連絡だけで電話が鳴り続けている」。

消費者として通っている店ほど、課題が手の届く距離で見えるんです。気づいたところで、客の立場で言うことではない。だから普通は黙って帰る。

でもこの「気づいたけど黙って帰る」を、営業の入口に変える設計があります。私はこれを、自分の中で 「消費者として埋め込まれる戦略」 と呼んでいます。


目次

「外から訪問する営業」と「中に居る人の提案」は別物

外から営業に来る人と、客として通っている人では、提案を聞くときの温度感が違います。

状況オーナーの反応の典型
初対面の営業マンが切り出す警戒。聞き流し。「営業」ラベルが先に貼られる
通っている客が雑談の延長で切り出す興味。自分事化。自然な質問が返ってくる

スタートラインの差が、決定的に違います。「この人は誰か」「信用できるか」を判断してもらう工程が、もう終わっている。提案の中身に、いきなり入れる。

外部営業が初回 30 分で必死にやることを、客として通う中で何ヶ月もかけて自然に終わらせている、という見方もできます。


強み 1:相手の現場が、外から来る人より見えている

通っていると、外から来る営業には絶対に手に入らない情報が、自然に手元に集まります

外から来る営業はこれをヒアリングシートで埋めようとします。ヒアリングは時間がかかるし、相手は同じ話を何度もさせられて疲れる。最初から見えていることが、商談で 30 分の時短になるのは、実際に商談に出てみないと体感できません。


強み 2:提案のタイミングを、自分で読める

外部営業はアポを取った日時に行くしかありません。その日が忙しい日でも、オーナーの機嫌が悪い日でも、関係なく話さないといけない。

埋め込まれている側は、これを自分で見極められます。

ベストタイミングを自分で選べるのは、成約率に直接効きます。1 軒のために 3 ヶ月待つ選択ができるのが、消費者として埋め込まれた者の特権です。


「こういうのあったらいいのに」を発火点にする

ここが今日いちばん書きたかったことです。

通っている店で「これ、どうにかならないのかな」と思った瞬間。普通は通り過ぎる。でも、これを「自分なら何ができるか」に変換する練習をすると、街全体が事業のネタ帳に変わります。

通っている場所「あったらいいのに」AI で何ができるか
行きつけのバー一人営業で電話に出られない時がある営業時間外の電話 → AI 一次受電 → LINE で要件通知
行きつけの美容院予約なし運用で、待ち時間問い合わせの電話が多い待ち状況の自動応答 → SMS で予約 URL 自動送信
行きつけのコンビニ深夜帯の在庫確認・電話対応の負荷在庫問い合わせ用の自動応答チャットボット
行きつけの整体院施術中の電話で施術が中断されるAI 一次受電 → 院長 LINE への要件サマリ通知

これは「営業先を探すために通う」のではありません。通った場所が、結果として営業の素材になる順番です。順番を逆にすると、客としての満足度がまず嘘になり、店主にもバレます。


どう「埋め込まれる」か、4 ステップ

順序を間違えないために、私が踏んでいる 4 ステップを残します。

ステップ 1:純粋に客として通う(最初の数ヶ月)

最初の数ヶ月は、営業の話を一切しません。客として満足度の高い関係を築くことだけに集中します。「ここに通って良かった」と心から思えること。これがないと、後の全部が嘘になります。

ステップ 2:相手の業務課題を、観察する

通いながら、相手の業務課題を観察します。「自分が解決できる課題があるか」を見極めるフェーズです。ここで「解決できる課題がない」と判断したら、その店は営業先にしません。無理に提案先に作り変えないのがコツ。

ステップ 3:雑談の延長で、業界トレンドを共有する

施術中・会計時の自然な雑談で、業界トレンドを共有します。「最近、こういうの導入してる店が増えてるみたいですよ」くらいのトーン。「指摘」ではなく「共有」です。相手が興味を示したら次へ。示さなければ、無理に進めません。

ステップ 4:相手から「うちは?」が出たら、本格提案へ

相手が自分から「うちでもできるかな」「うちはどうなんだろう」と言い始めたら、本格的な提案フェーズに進みます。こちらから売り込むのではなく、相手から言わせるのが理想形。私の場合、ステップ 3 から 4 に移るまで、さらに 1〜2 ヶ月かかりました。それくらい焦らない方が、商談に入った時の温度感が違います。


注意点:信頼を消費する形になるリスク

埋め込み型営業は、無視できない注意点があります。最大のものは 「信頼を、営業のために消費する形になる」 こと。

「この人、客として来てるけど、結局営業目的だったのか」と一度でも思われたら、信頼は一気に消えます。客としても通えなくなる。

対策はシンプルで、「営業を断られても、客として通うのは別問題」というスタンスを最初から持っておくこと。私は商談の冒頭でも口に出して伝えます。これがあると、相手も「営業ノルマで来てるわけじゃないんだな」と感じてくれる。

もう一つ、規模の限界もあります。自分が通える場所は、物理的に限られる。埋め込み型だけで月 10 件の見込み客は作れません。だから私はこれを「第 1 号案件・ケーススタディ取得」専用の戦略として位置付けています。ケーススタディが揃った後は、紹介・SNS・公的機関といった別ルートに展開する前提です。


街の見え方が変わる

この戦略のいちばん面白いところは、事業を始めた瞬間から、街の見え方が変わることです。

普段通っているコンビニ、行きつけのバー、いつもの美容院。「あったらいいのに」が、全部、事業のネタに見えてくる。通勤路が、毎日違うネタを 1 つずつ落としていく市場リサーチの場に変わります。

これは、遊ぶように働く生き方の入口でもあります。消費している時間と、事業を組んでいる時間が同じになる。客として満足しながら、事業のネタも拾う。両立してるんじゃなくて、最初から同じ時間です。

街を、ネタ帳として歩く。これが、消費者として埋め込まれる戦略のいちばん楽しい副作用です。


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それでは、また。


荒居 憧哉(PlayWorker 代表)